9月1日にブラジルのドキュメンタリー映画『Divine Divas』が日本で公開されます。
先に映画について少しご紹介しようと思います。
トレイラーはこちら。
舞台となるのは70年もの伝統のある、リオ・デ・ジャネイロの劇場「ヒバル・シアター」。
ヒバル・シアターは軍事独裁政権下における1960年代のブラジルで、自由と人権を求めトランスヴェスタイト(異性装)やドラァグクイーン達のショーを行っていました。
厳しい検閲がありながらも、自由を求めて自らを表現し、人々に勇気を与えた彼女らの人生が、映画ではドキュメンタリーとして描かれています。
2014年にディーバたちのデビュー50周年を記念して行われたショーの映像と、波乱万丈な人生を送った彼女らのインタビューが、過去の映像や写真とともに織り込まれ、とても見応えのある作品になっています。
今でこそ、オネエタレントや女装男子、男の娘(こ)などがテレビやインスタなどのメディアで市民権を得てきていますが、日本においてはここ10年くらいの出来事ではないでしょうか。
地方ではなかなか難しいかもしれませんが、東京では「趣味は女装(男装)です」と言って、休みの日にカフェに集まったりする人たちも増えてきているようです。
どうしても派手なパフォーマーやアーティストが目立ってしまいますが、一般の人も自分を自由に表現できる社会であってほしいものです。
映画でも描かれているように、ブラジルのディーバたちがデビューした時代は、想像を絶するような迫害があったに違いありません。
女装をして外を歩くだけで警察に捕まったり、精神病院に入れられたり…。
活躍の場を国外に求め、ヨーロッパやアメリカに渡ったディーバたちも少なくありません。
世界で認められた後、ようやく自国でも認められるようになったのでした。
登場するのは8人のディーバたち。
70代を迎え、舞台から遠ざかっていた人もいるので、ショーを行うのは大変だったようですが、そこはプロフェッショナル。
美しい女装で見事なショーを披露してくれます。
日本でいうと、美輪明宏さんやカルーセル麻紀さん世代ですので、もうレジェンドですね。
先駆者として道を切り開いた強さがあります。
きっとたくさんの人に勇気を与えてきたのでしょう。
また、この映画を見て勇気づけられる人も多いと思います。
キャストの一人であるDivina Valériaさんがプロモーションで来日され、幸運にもインタビューをさせていただく機会に恵まれました。
第一印象は、年齢を感じさせない美しさとパワフルさ。
現役の歌手ですから、流石といった感じです。
声も大きく、まるで歌うように話す姿が印象的でした。
お隣の通訳の方に、めちゃくちゃ顔を近づけてお話ししていらっしゃいました。迫力が(笑)!
私はメディアの記者ではないので、映画を見た感想やインタビューの感想、印象に残った言葉をこのブログで紹介することにします。
記者の方が立派な記事を書いていますので、こちらをご覧ください。
Divina Valériaさんは、1964年にブラジルでデビューし、69年にパリに渡りました。
当時のパリは芸術や表現において、彼女らにとても刺激を与えたようです。
そのころイタリアの伯爵と出会い、とてもよくしてもらったそうですが、3年後にブラジルに戻り7年間活躍し、またヨーロッパに戻ったら捨てられてしまったそうです!
「日本でも貴族と出会う機会はないかしら~?」と笑いながらおっしゃっていました。
映画を製作するにあたって、撮影は4年間、編集は2年にも及んだそうです。
その間にもDivina Valériaさんは現役の歌手なので国内外でショーをしており、撮影陣も入ったそうですが、そのシーンは全く使われず!
蓄積された映像がたんまりとあるので、とってももったいない!
「いつかテレビシリーズや映画第2弾として使われたらいいと思うわ」とおっしゃっていました。
私はとても気になることがあったので、聞いてみました。
高齢化が進む日本では、老人の孤独死が問題になっています。
特にその年代のLGBTsの方々は、カミングアウトをせず周囲に受け入れられずに過ごしてきた方が多く、より孤独を感じているのではないかと思います。
そこで、「年を重ね、高齢になったとき、孤独でない生き方をするにはどうすればいいか」という質問をしました。
彼女はこう答えました。
「私は今74歳だけど、老いたとも高齢だとも思っていないわ。
それは、『蓄積した若さ』。
私は舞台の上に立っているので、その喜びが今は一番大きいけれども、たとえ舞台を降りたとしても孤独を感じるとは思わない。
家族もいるし友人もいるしね。
たとえ自分のことを打ち明けられる親しい人が周りにいなくても、自分の中に、内側に、蓄積された人生を思い出すことができるでしょ。
その自分の人生に尊厳をもっていれば、孤独を感じることはないと思う。
私たちはみんな家族。孤独を恐れる必要はないわ。」
まさに、自分の人生を生きてきた人の言葉だなと感じました。
周りにいたスタッフからも感嘆の声が上がっていました。
映画の最後の方で、Divina Valériaさんがソロで歌うシーンがあるのですが、波乱万丈に生きてきた彼女の人生を体現するようで感涙でした。
そしてその歌は、全ての人々に向けてのメッセージだと感じました。
「あのシーンで涙を流す人は多いみたい。
私自身の人生を表現しているのはもちろん、皆さんに向けてのメッセージなの。
私たち8人は一つの例。インスピレーションを受けてもらったら嬉しいわ。
私は厳しい弾圧や障壁、アイデンティティの葛藤など様々な試練を乗り越えて、夢を叶えた。
でも今は誰もが自由に自分を表現できる時代。
トランスヴェスタイトとかトランスジェンダーとか関係なく、全ての人々が自分らしく、胸を張って、深く生きてほしい。
尊厳、自尊心をもって生きていれば、きっと幸せになれる。
私は皆さんの幸せを願っています。」
とっても力強いメッセージをいただきました。
誰もが彼女のように強くなれるかといったら、それは難しいかもしれませんが、やはり自分の芯をもつことが大事なんですね。
映画を見てもそういったメッセージは伝わってきますが、直にお話を聞くことができて、より深く感銘を受けました。
エネルギーとパワーをいただき、感謝です。
映画で描かれているのは少し特殊な世界かもしれませんが、全ての人々にとって「自分を生きる」というメッセージが込められていると思います。
ぜひ、劇場へ足を運んでみてくださいね!
P.S.ブラジル大使館は、とてもモダンな建物でした!